私たちは、薬剤師や医師らによる有志のグループです。
諸外国ではすでに認められている薬剤師の処方権を求めて、この署名活動をはじめました。
処方権がないことで、現在では軽微な処方の変更すら薬剤師はできず、いちいち医師に判断をあおいで非効率な状況となっています。

「用法と部位が抜けておりますのでお教えください」

「眠前ではなく就寝直前ではないでしょうか?」

「一包化のご指示をいただけますでしょうか?」

薬局内に虚しく響き渡る声、

「処方におかしな点があるので、このままでは薬を渡せません・・・」

薬局からの不毛な疑義照会は、医師にとっても煩わしく、大事な診察時間を奪うものとなっています。現行制度では、医師に確認をとらなければ、薬剤師は何もできず、ただ患者に薬を渡すだけの存在でしかありません。医師・患者・薬剤師の全てに余計な手間と時間、コストを費やしています。

今、日本は未曾有の超高齢化社会を迎えています。数少ない医師に確認を取らなくても薬剤師が自ら判断して動ける体制を構築することが喫緊の課題です。

また、医師と薬剤師、コメディカルが互いを尊重し合い、みんなが対等な立場で意見を言いながら、それぞれがその専門性を十分に発揮して、医療を進めていくことが重要です。それは病院内だけでなく、街の薬局でも同じことが言えます。私たちは、現状ほとんど専門性を発揮できていない薬剤師の能力を解放して、その能力を存分に発揮できるように法改正を求めています。薬剤師が専門性を十分に発揮することで「質が高く、緊急時にも迅速に対応できる医療」を実現したいです。

どうか広く皆様のご賛同をよろしくお願い申し上げます。日本の医療を、先進諸外国にも引けを取らない制度に変えようではありませんか。

今回の「処方権」の定義

疑義照会簡素化〜零売〜独立型まで  グラデーションあるものを範囲としています。   
疑義照会簡素化→全薬剤師
独立型処方権→上位層薬剤師
高度になるにつれ、満たすべき薬剤師の条件を厳しくする。というイメージです。

 下記に、有識者の意見を列挙します。ご参考にしてください。

KOUTY

病院薬剤師・NST専門療法士
『薬剤師の処方権について』

稲田伸一

薬局薬剤師・Link株式会社代表取締役
『処方権を持つ薬剤師の社会的役割』

薬局薬剤師・書籍「達人の処方鑑査術」の著者
『変わるX新時代の薬剤師へX動き出す』

古武幸之介

YouTube 「薬剤師の健康雑学-コンプラスチャンネル」  
『薬剤師を東洋医学の担い手に』

【特別寄稿】

薬剤師の処方権について

著者:KOUTY@薬剤師のすゝめ 病院薬剤師 NST専門療法士
SNS(Twitter、Instagram)を通して正しい薬の知識を発信しています

薬剤師法第一条には「薬剤師は、調剤、医薬品の供給その他薬事衛生をつかさどることによつて、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする。」と記載がある。

薬剤師は安全に医薬品を国民に供給してこそ職務を全うしたと言えます。現在日本で処方権があるのは医師、歯科医師、獣医師であり、薬剤師は該当しません。

一方、海外に目を向けると英国では独立型処方権、米国では依存型処方権の権限を薬剤師に与えられています。独立型とは患者の臨床所見を診て薬剤師が処方箋を書く権限、依存型処方権とは例えば医師と薬局間での約束処方や、病院内で正式に決められているガイドライン等に基づいて医師より権限の委任を受け、薬剤師が処方箋を書く権限です。

現在日本において薬剤師の判断で用法の変更、腎機能に応じ投薬量を変更、処方薬の日数変更は認められておりません、この様な事例の場合全て医師の確認が必要となっております。もし薬剤師に処方権があればこのような事例は薬剤師の判断で変更可能であり、医師の業務負担軽減にも十分役立つのではないかと思います。無論全ての薬剤師が処方権を与えられるのではなく、しっかりした研修やプログラムを受講し専門資格を習得した薬剤師に限り処方権が与えられるべきでしょう。薬剤師に処方権を付与する事で各々の専門性を活かし、より最適な医療を国民に提供できるのではないかと私は考えます

薬剤師の専門性と処方権

著者:Yuya.T
構造活性相関やファーマコフォアで臨床に役立つ化学的考察を目指す医療従事者 

「今の薬剤師は日本社会において本当に必要な存在ですか?」
薬剤師自身もこの問題を直視できずに目を逸らしているのではないでしょうか。

薬剤師の専門”薬学

薬剤師の専門は”薬学”であり、薬学部では生命科学の全領域と言っても過言ではない分野を学びます。他の医療従事者に比べ、薬剤師の専門分野は薬物動態学、薬力学、薬理学、薬剤学、製剤学など多岐にわたり、その基礎には【化学】があります。こうした薬学教育の中で、薬の成分を分子レベルで考察し医療に活かすための素地が養われていきます。

また、製品としての医薬品についても製造工程や技術、試験法、承認・審査、薬事法規・制度など、薬剤師は体系的に学んでいるのです。

誰も得しない弱過ぎる薬剤師の権限

諸外国の薬剤師は薬の専門家として様々な形で処方権を持っていますが、日本の薬剤師は処方権どころか処方箋の簡単な修正・変更権すらありません。そのため、専門性が不要と思えるような疑義照会でさえも、医師はそれに応じなければならず、医師・患者・薬剤師の全てに余計な手間と時間、コストを費やしています。薬剤師法第24条に、薬剤師は、処方箋の疑わしい点を医師に問い合わせて確かめた後でなければ調剤してはならない、と明記されており、医師の回答を得て疑義が解消されるまで患者に薬を渡すことができません。

もちろん薬剤師に判断できない、難しい場合には従来通りの疑義照会が必要ですが、薬剤師判断で可能なものは薬剤師に権限と責任を与えて任せた方が、医師・患者(国民)・薬剤師それぞれの負担を軽減できるのです。その際の線引きも、諸外国の文化や社会保障制度、その国で処方権を持つ薬剤師の業務などを参考に、日本に合う形で整備できれば良いでしょう。

社会で活きる薬剤師の処方権

薬剤師が処方権を持つと同時に、部分的にでも軽医療を担うことができれば、超高齢社会で歯止めの利かない社会保障負担を軽減でき、また、医師にとってもそのマンパワー不足による激務が緩和され、より専門業務に注力できるようになります。薬剤師に権限と責任を与えるメリットは、薬剤師自身がこれまでに学び得た薬学的専門性の発揮だけでなく、他職種や医療業界、ひいては社会全体に波及していくでしょう。

とはいえ、やはり薬剤師の資質と能力もピンキリです。処方権に関しては、まずは薬剤師の上位層に、たとえ限定的にでも処方する権限と責任の付与を検討してはどうかと考えます。国内医療業界の政治的な力関係や歪みもある中、「社会的コストに見合った医療体制」を全国民で考えなければいけない状況で、薬学の専門家である薬剤師をもっともっと活用してみてはどうでしょうか。

処方権を持つ薬剤師の社会的役割

著者:稲田伸一 Link株式会社代表取締役

医師の負担を軽減するために薬剤師に処方権を

未曾有の感染症で世界はパニックに陥りました。あらゆる産業が大きなダメージを受けました。医療も例外ではなく、病院、医院、薬局も発熱や感染者の対応に追われました。2020年4月には「0410対応」と言われる通知が厚生労働省から出され、電話やオンライン診療での受診が可能となりました。ワクチン接種の予約と電話診察によって病院や街のクリニックは電話が鳴り止まない状態になりました。

薬局薬剤師として、疲弊していく病院やクリニックから流れてくるFAX処方箋を見て
「Do処方なら薬剤師の判断で処方してもいいのでは?」
「薬剤師に処方権があれば幾分、処方元のドクターの負担も軽減できるのでは?」
「代理受診なら病院を介さなくてもいいのでは?」

そう考えるようになりました。日本の薬剤師の権限は非常に限定的であり、処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売でさえ大手を振って行うことは許されません。薬剤師に処方権、または処方権に類似する権限を付与することによって、不足する医師の負担軽減にも繋がると考えております。

薬剤師に処方権を与えて医療の効率化を実現

また、ドクターであればどなたでもご経験がおありかと思います。薬局からの不毛な疑義照会。

「用法と部位が抜けておりますのでお教えください」
「眠前ではなく就寝直前ではないでしょうか?」
「一包化のご指示をいただけますでしょうか?」

煩わしいでしょう?大事な診察時間をこんな疑義照会に奪われてしまうんです。患者さんにとっても疑義照会で待たされるのは苦痛だと思います。薬剤師法第24条を抜粋します。

薬剤師は、処方せん中に疑わしい点があるときは、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによって調剤してはならない。

薬剤師法第24条

この薬剤師法第24条によって、薬剤師は不毛とわかっていながらも疑義照会をせざるをえないのです。不毛な疑義照会をなくすためにも、薬剤師に処方権を付与することを提案します。

薬剤師への処方権付与がもたらす革新的な医療改革

薬剤師に処方権、あるいは処方権に類似する権限を付与することは、医師不足や超高齢社会における医療資源の活用に繋がります。処方権を持つ薬剤師は医療体制の改善に大きな役割を担えると考えております。

「変わるX新時代の薬剤師へX動き出す」

著者:濱本幸広 書籍「達人の処方鑑査術」の著者
調剤薬局+ドラッグストア+派遣の三刀流薬剤師

土曜日の15時頃、薬局で下記の処方箋を受付した。

12歳(45kg)男 発熱は昨日19時
内科を受診すると、インフルエンザだった。

 薬剤師なら誰もが知っているが、イナビルは10歳以上の小児に使用する場合、2キットを吸入する必要がある。このままでは薬をお渡しできないので、病院に疑義照会の電話をするが繋がらない。患者は早く薬を欲しいと言うが、疑義が解決しないままでは薬を渡せないのだ。薬剤師は、医師に連絡が取れなければ、どうすることもできない現状がある。

 薬局内に虚しく響き渡る声、
「処方におかしな点があるので、このままでは薬を渡せません。」

 患者は納得いかないだろう。インフルエンザのような急性疾患であればなおさらだ。薬剤師の存在価値とは何だろうか?ただ、処方どおり薬を渡すだけの存在、添付文書と処方が違えば疑義照会をするだけの存在、そして、医師に連絡がとれなければ、それで終了なんだろうか。そんな馬鹿げた資格の枠を飛び出そうではないか。薬剤師には、それを判断するには十分すぎる知識がすでに備わっている。

疑義照会の限界と薬剤師の判断力

 薬剤師は、いつもの薬局業務を思い出して欲しい。明らかに処方の不備があったときに、薬剤師がその処方を修正して、事後報告とできれば、どれだけ患者にベネフィットがあるだろうか。個別指導対策として確認するだけの疑義照会をする意義に何の価値があるだろうか。また、旧石器時代のような処方をする医師に、物申すこともできず調剤せざるをえない薬剤師の立場はいつになったら解決するのだろうか。みんなの抑えきれない感情を解き放とうではないか。

患者のために薬剤師に処方権を

 時代は大きく動き出そうとしている。みんな分かっているはずだ。私たち薬剤師に処方権があれば、解決する日常の業務は多い。それは、患者にとって大きなベネフィットになるだろう。新時代への幕開けに、薬剤師の輝かしい未来に大きな賛同を!!

ロボット活用によるタスクシフトでマンパワーを引き出さなければ高齢化は乗り切れない

著者:渡部正之 薬局の経営 自動調剤技術の研究開発 

世界的に見ても高齢化率でトップを独走する日本では、間近に2025年問題や2040年問題が控えています。

国民年金制度ができた1960年代には約9人の現役世代で1人の高齢者を支える胴上げ方式だったものが、約3人で1人を支える騎馬戦型になり、やがては約1人の現役世代が1人の高齢者を支える肩車式社会が到来するといわれています。

超高齢社会を乗り切るには、医師も薬剤師もすべての医療・介護職がよりクリエイティブに、それぞれの職種でしかできないことに集中するしかすべはありません。効率化、ICT化、そしてロボット化を進めることで専門職を単純作業から解放し、今あるマンパワーを最大限に引き出さなければ、超高齢社会を乗り切ることなど困難です。

特に今後を見据えて進めるべきなのは、ロボットを活用したタスクシフトです。薬剤師による薬剤のピッキング業務をロボットに移管することで、超高齢社会で必要とされる高度急性期医療、先進医療に充てるマンパワーと財源を確保することができるからです。厚生労働省「令和元年賃金構造基本統計調査」によると2019年度の医師の平均年収は約1169万円、薬剤師の平均年収は約562万円です。また厚生労働省「令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」では2020年時点での全国の医師数は約34万人、薬剤師数は約32万人となっています。

このことから、現在の医師の業務には1169万円×34万人=約3兆9746億円、薬剤師の業務には562万円×32万人=約1兆7984億円の人件費がかかっているといえます。

今後薬剤師の業務のうちの約半分を占める対物業務をロボットが担うようになれば、単純な労働量だけで計算すれば薬剤師の半数(約16万人)に、病棟等における薬学的管理や薬剤の投与量変更など薬剤師による処方権を認めることで、医師の業務のうち薬物治療に関わる多くの部分を移管することができます。

そして、その分医師はそれまでとは違う業務、例えばより高度な急性期医療や先進医療に携わることが可能になります。つまりロボットへの薬剤師業務のタスクシフトによって医師のマンパワーを引き出すことと人件費の削減につながり、超高齢社会を乗り越えるための医療に充てることができるのです。

持続可能な医療体制に向け、薬剤師の処方権・零売の議論を

著者:高橋秀和 薬局薬剤師

「質が高く、効果的で、持続可能な医療制度」は、いずれの国においても達成すべき目標であり、日本も例外ではありません。

近年、多くの国において軽微な症状・疾患に対する「薬剤師の処方権」がトレンドになっています。主な理由として、広く国民に対し質の高い医療を提供する上で薬剤師が適格であること、公的医療費の膨張を防ぐために有効な方策であること、医師のマンパワーを有効に活用できること、患者の権利(適切な医療介入や助言を受けられること、診察では医師と十分なコミュニケーションが取れること)の尊重に繋がるといったメリットが挙げられます。

現在、厚生労働省会議において「零売」を規制するための議論が進んでいますが、上記のような医療体制の全体像が考慮されておらず、不適切です。持続可能で実効性の高い医療制度を構築するため、薬剤師の処方権・零売について前向きな議論を求めます。

医療のフリーアクセスか、それとも市販類似薬の安売りか

日本に限らず多くの国において、税金もしくは強制加入の保険によって医療財源が賄われています。日本の医療制度の特徴は主として「フリーアクセス」と「出来高制の診療報酬制度」にありますが、この特徴のために、医療機関にとっては「市販類似薬を保険を使って安く提供することで集患し、診療報酬を得る」、患者にとっては「受診することで湿布や保湿剤などが安く入手できる」というモラルハザードが生じ、医療財源の浪費に繋がっています。

患者の権利と医師のマンパワー

医療のフリーアクセスには、気軽に病院・クリニックを受診できるというメリットがある一方、「3分診療」などと呼ばれる診察時間の短さ・患者と医師とのコミュニケーションの不十分さといったデメリットが伴います。

患者の権利として、また適切な診断・治療のためにも、十分な診察時間とコミュニケーションは重要です。高血圧・糖尿病・心臓病など複数の疾患を持つ患者が年に4~5回受診し合計10分ほどの診察時間、といった事例も珍しくありません。それでは十分とはいえません。

一人当たりの短い診察時間にも関わらず、勤務医を中心に多くの医師が労働基準法が定める水準以上の過酷な労働環境にあります。十分な改善のメドも立っておらず、各医療職能が担う業務を見直す必要があります。

零売の規制に前のめりな厚労省会議

「零売薬局」などで知られる「処方箋医薬品以外の医薬品」を販売する行為について、現在厚生労働省において会議が設置され議論が進められています。

現状、ほとんどの会議委員が零売の規制を求めており、カテゴリー自体をなくすべきといった意見まで出ています。従来の医師・薬剤師のパワーバランスや利益分配を変えないという意味では合理的でも、上で述べた「医療体制の全体像」が全く考慮されておらず、極めて不適切です。先進諸国の趨勢にも逆行した議論であり、将来の日本の医療にとって大きな禍根を残すことになります。

持続可能で実効性の高い医療制度を構築するため、零売を活用するための前向きな議論を求めます。

薬剤師を東洋医学の担い手に

著者:古武 幸之助
YouTube 「薬剤師の健康雑学-コンプラスチャンネル」

はじめに 

今後、薬剤師が過剰となり20年後には最大で12.6万人の薬剤師が余ると言われています。 この過剰問題を解決する糸口となるのが「薬剤師の処方権」です。もちろん薬剤師に全ての医薬品の処方権を与えるというのは時期尚早であると思います が、一部の医薬品の処方権を限定的に与えることは十分可能であると考えています。そこで、私からは「薬剤師に漢方エキス製剤及び生薬の処方権を与える」という提案をさ せていただきます。

なぜ漢方の処方権なのか

まずは、現行の”医師が漢方薬を処方する・薬剤師がOTCの漢方薬を販売する”という 体制を変えてまで薬剤師に漢方薬の処方権を与える必要があるのかという点についてお話します。 それは現在、日本には東洋医学の担い手となる医療者が非常に少ないということにあります。現代医療には日本の伝統医学とも言うべき漢方医学を十分に活かす土台がありません。江戸時代の資料を見ていただければ、非常に高度な理論体系に基づいて漢方処方が行われ ていたことがわかると思います。 

しかし、日本の漢方医学は西洋医学の台頭によって一時衰退しました。 その後少しずつ復興し、先のコロナウイルス感染症の治療では漢方薬が多く用いられ、その効果が見直されつつありますが、現代の漢方薬の使用方法には1つ問題点があります。それは、『方証相対』という方法論に基づいた処方が行われていることです。

例えば、「寒気があり・汗が出ない・肩がこる」という症候に対しては「葛根湯」を処方 する、といったものです。漢方薬一つ一つに適応があり、症状に対して最も適した漢方薬を選定して交付します。利点としては専門医でなくともある程度漢方薬の選定ができるということが挙げられます。専門知識のない人でも気軽に漢方薬を使えるようにした功績は素晴らしいものです。

しかし、この方法論では処方するまでの理論が欠落している場合があります。「この人の症状は葛根湯の証にあってるから葛根湯を処方する」といった感じで、そこに 体系的な理解はありません。 これは中医学の治則である「急なればその標を治し、緩なればその本を治す」、 現代医療に言い換えれば「急性期は対症療法、そうでなければ根本治療」という原則を守れず、対症療法にばかり目がいってしまい、本当の治療効果が得られていない状況だと言えます。

中医学の本領である「未病先防(未病を治す)」もこれでは難しいでしょう。そこでこれからの薬剤師に求めるのは、中医学の真髄である『弁証論治』に基づいた処方です。「四診(望・聞・問・切)」により「証」を見定め、治療法を論じ、治療するといったものです。先ほどの葛根湯の処方例で言うと、悪寒や肩のこわばりなどの症状からではなく 「表寒証に対する辛温解表剤として葛根湯の処方を行う」ということになります。

この弁証論治を適切に行える薬剤師は非常に少なく、一部の漢方薬局でのみ行われている状況です。それ故に今すぐ薬剤師が漢方薬を処方できるようにする、というのは難しい話であり、 まずは薬学部の教育カリキュラムの見直し、そして既存薬剤師には講習の受講と新たな上 位資格もしくは認定を与えることで処方権を持つものとします。 既にある認定制度で言うならば国際中医師が最も近いのではないかと思います。

薬剤師に漢方薬の処方権を与えることのメリット

まず、治療を求める患者の選択肢が増えるということが挙げられます。 患者は医師に相談するか薬剤師に相談するかを自分で決め、西洋医学・東洋医学の両面か ら治療をすることが出来るようになります。 

既存の漢方薬局に関しても 処方権を持つ=保険を使った治療ができる ということから 現状の零売制度を利用した薬局経営よりも安定した収益を得ることができ、患者側も今ま で高額で手が出せなかった漢方治療を大きな負担なく受けることができます。漢方薬局が増え、薬剤師の雇用が生まれることで、薬剤師過剰問題を解決する一助にもなり得ます。

また中医学は未病を治すことができるため、その担い手が増えることで未病から病気に進展する人が減り、結果的に医療費の削減も期待できます。そして何よりも、一度は衰退してしまった漢方医学を取り戻すきっかけとなるのではない かと私は期待しています。

実現するために直面する問題 

薬剤師に処方権を与えるということは、薬剤師が医師の利権を奪うと言っても過言ではありません。当然医師会からの反発に遭い、実現するのは困難を極めることでしょう。しかし私の提案は薬剤師が医師の権利の一部を頂くというものではなく、手付かずの医療 ニーズを薬剤師自らが開拓していくものです。

医師は引き続き日本の伝統医学である方証相対に基づく漢方薬の処方、薬剤師は中医学に 基づく弁証論治による処方を行うことで、それぞれの住み分けが実現して互いの職域を侵 すことはありません。そして、もう一つの問題となるのは薬剤師の教育です。 西洋医学ベースの知識では「漢方薬には副作用がほとんどない」という誤った認識が広 まっていますが、未病レベルの副作用は無数に存在します。

間違った治療方針を打ち立て、証に対して逆の治療をしてしまうと症状はさらに進みます。 こういったリスクを知るには体系的な理解が必要となり、臨床で使えるレベルの弁証論治 を習得するにはかなりの時間と労力を要します。しかしながら薬剤師の中には基礎能力の高い人材や患者との対話に秀でた方も多く、弁証 論治を学ぶのにこれ以上ない資質を持っていると私は考えています。 制度さえ整えることができれば自然とエキスパートが育ってくるはずです。

さいごに

“薬剤師がどれだけ有用な存在なのか” 

今こそそれを示していくフェーズにあるのではないでしょうか。 AIの登場、薬剤師の過剰、Amazon薬局の参入、さらには電子処方箋の普及によって淘汰される薬局も増えるでしょう。様々な問題が同時に押し寄せてきています。乗り越えるためには、変わる必要があります。 変わろうと思わなければ変わることはできません。 まずは第一歩として、声をあげることから始めてみませんか。薬剤師に処方権を与えるというのは、できない理由を探せば簡単に潰せる案かもしれません。

それでも実現した未来を想像すると『今、動かない理由は無い』と感じ、拙文ではありま すが私の意見を記させていただきました。署名だけでもいいです。リツイートでも、いいねをつけるだけでも大切な一歩です。どうか、よろしくお願いします。患者にとって最も身近な医療者として第一に頼ってもらえる存在になれば薬剤師の未来は きっと輝かしいものになるでしょう。

薬剤師の処方権によるチーム医療の革新と患者満足度の向上

著者:東徹

 私は医師の立場から、薬剤師が処方権を持つことを推奨したいと思います。それは薬剤師が処方権を持つことによって医療の質が向上する、という実体験に基づく確信があるからです。2016年に、入院患者の治療に関して薬剤師による処方提案をそのまま医師である私が処方する、という試みを行い学会発表をしました。結果としては、重症患者が問題なく改善して退院に至り、患者側の評価も好評だった、というものでした。その試みを通じて、薬剤師が処方権を持つことが、チーム医療の質を向上させ、患者満足度の向上につながることを実感しました。

医師の権限が薬剤師の役割を制限する現状

 医療における医師の権限は極めて大きく、医師法により「医師でなければ、医業をなしてはならない。」と制限されています。そのため、薬剤師は薬剤の知識において医師に優っているにもかかわらず、医師の処方箋がなければ薬を処方することが出来ません。その現状では、薬剤師が診療に主体的に関わるには大きな困難があります。それは、自身に権限のない範囲にまで責任感を持った考察を自律的に行うには多大な努力を要するからです。

 チーム医療でも医師が主導とならざるをえません。権限に明らかな差がある以上、医師と薬剤師は上下関係を完全には排除できず、真に対等な関係を構築することは極めて困難となっています。

新たなチーム医療試みが薬剤師の意識変化を引き起こす

 そのような問題意識に基づき2016年「医師以外の職種が主体的に治療方針を提案する新たなチーム医療の試み」を行い、学会発表をしました。そこでは、重症患者が無事に退院に至ったという結果だけでなく、薬剤師の意識の変化も特筆すべき点でした。
参加した薬剤師は、
・医師に任せきりだった部分がいかに多かったのかが見えた。
・医師に対して意見を言うためには、責任を伴った根拠のある意見にしなければならず、結果として知識を深める動機づけになった。
・薬剤の決定に関わることによって、服薬指導も踏み込んだ内容で行えるようになった。
との気づきが得られました。これは裏を返せば、現状の枠組みでは薬剤師が主体性を持って診療に参加することには困難があることの一つの証明でもあります。

薬剤師の処方権で実感するチーム医療の高度化と患者満足度の向上

 海外には薬剤師が処方権を持つ国は多くあり、良好な診療成績が多数報告されています。そのようなエビデンスだけでなく、自身の実感としても、薬剤師が処方権を持つことで、より高度なチーム医療を構築し、患者満足度の向上に寄与することができると確信しています。

 薬剤師に処方権を。ご協力よろしくお願いいたします。

【特別寄稿】

薬剤師による処方は、医師による処方と比較して、処方内容の質に相違があるか?

著者:青島周一

Abstract

【背景】日本の薬剤師は薬の専門家であるにも関わらず、薬における最も重要な権限の一つである「処方権」を有していない。しかし、処方された薬の有効性や安全性は、医師と薬剤師で顕著な差を認めるかどうかについては議論の余地がある。

【方法】2023年5月7日までに報告されている文献について、PubMed、およびGoogleを用いたナラティブレビューを実施した。なお、薬剤師の処方を比較していない研究、治療的な薬物療法ではない研究は除外した。

【結果】PubMed検索では106研究が該当し、このうち3研究をレビュー対象とした。またGoogle検索によって同定された1研究もレビュー対象に加えた。

 Stimmelらの研究1)では、精神保健施設において、薬剤師と精神科医による処方内容を比較している。その結果、抗コリン薬の処方は、医師と薬剤師で明確な違いを認めなかった。一方で、抗精神病薬および抗うつ薬については、薬剤師の処方が医師の処方よりも有意に優れていた。

Chenellaらの研究2)では、抗凝固療法の管理について、医師と薬剤師の処方が比較された。その結果、医師と薬剤師で処方された抗凝固薬の平均投与量に統計学的有意差は認めなかった。

Daltonらの研究3)では、STOPP/STARTcriteriaの推奨事項について、医師と薬剤師のアプローチが比較された。その結果、医師によるSTOPPおよびSTARTの実施割合はそれぞれ81.2%および87.4%であり、薬剤師による実施割合(それぞれ39.2%および29.5%)よりも有意に高いことが示された。

McGhanらの研究4)では、高血圧を有する外来患者が対象となり、薬剤師および医師の処方が比較された。その結果、薬物相互作用の有無、投与量や用法の適切さ、患者の服薬指示に関するスコアは、医師の処方と薬剤師の処方で差を認めなかった。

【結論】臨床アウトカムに対する医師と薬剤師の処方に、著明な差異は認められない。ただし、いくつかの薬物慮法は専門医の管理下で行われた方が安全であることを示唆する弱い根拠がある。方法論的妥当性の高いエビデンスと、患者自身の生活環境を適切に考慮した意思決定を行うためにも、医師と薬剤師、双方の専門分野で連携することが、薬剤師の処方権をより有意義に活用できる前提条件である。

【参考文献】
1)Stimmel,et al.1982; PMID: 6127948
2)Chenella,et al.1983; PMID: 6638026
3)Dalton, et al.2019; PMID: 30659429
4)McGhan,et al.1983; PMID: 6843196