薬剤師の処方鑑査における用法・用量の覚え方

 薬剤師により覚え方はいろいろあるが、私は用法・用量を「感覚」で覚えている。ただし、一部の特殊な用法・用量をもつ薬は地道に覚えるしかない。書籍「達人の処方鑑査術」では、用法・用量の覚え方について書いていなかったので解説する。

感覚で覚える用法・用量とは

例1

アトルバスタチン錠10mg 朝食後1回1錠

 例1の場合、ほとんどの薬剤師は「スタチン=1日1回投与」と覚えているので、用法は問題ない。用法は、食事に関係なく1日1回であればいつでも良く、服用時点による効果の差はほとんどない。患者にとって飲み忘れにくい時間がベストだろう。では、アトルバスタチンは1日何mgまで投与できるか覚えているだろうか?

例2

アトルバスタチン錠5mg  朝食後1回1錠

アトルバスタチン錠10mg 夕食後1回1錠

 日常業務でよく見る用量は、例2のような5mgまたは10mgが多い。いつも自分がよく見ている用量と一緒なら問題ないと考える。つまり、アトルバスタチンを過去に処方鑑査した時と同じ用法・用量だから問題ないという感覚である。

例3

アトルバスタチン錠10mg 夕食後1回2錠

 日常業務であまり見ない例3のような用量で処方された場合、いつも見ている用量と違う時は添付文書を見る。つまり、その薬を処方鑑査している日常の感覚と違う時は、添付文書を見れば良い。処方鑑査の回数が増えれば、たまに20mgで処方されることがあるので、その経験を重ねていくうちに、問題ないと判断できるようになる。

例4

アトルバスタチン錠10mg 就寝前1回3錠

 もし、アトルバスタチンの用量・用量を完璧に覚えていれば、例4の用量でも問題ないと分かるが、このような用量で処方されることは稀である。記憶というのは、いつも処方鑑査をしている添付文書どおりの用法・用量を、処方鑑査の都度、再確認することで定着していく。普段、見ない用量の処方は、記憶の再確認ができなくなり、いずれ忘れてしまうのだ。この時に、うろ覚えの知識で添付文書を見ないまま処方鑑査をするのは、極めて危険な行為である。

私のアトルバスタチンの用法・用量の感覚

アトルバスタチン錠○mg:○(5or10、稀に20)

1日1回(いつでも良い)

 結果として、私はアトルバスタチンの用法・用量をこのような感覚として記憶している。普段、処方鑑査をする機会が少ない用法・用量はいずれ忘れてしまう。添付文書を覚えようとしてもその労力は無駄に終わる可能性が高い。ならば、自分の記憶に蓄積されていない薬が処方された時、または普段とは違う用法・用量で処方された時は、添付文書を見れば良い。

達人薬剤師
ハマヨ

感覚とは、過去に処方鑑査をした記憶の蓄積である

私は、ほとんどの薬をこの感覚で問題ないと判断している。

最も処方される「型」とは

例5

アジルバ錠20mg 朝食後1回1錠

 規格が複数ある薬では、たいてい最も処方される規格が存在する。アジルバで言えば、20mgである。この規格を基準として、10mgであれば降圧作用以外の目的(心保護、腎保護など)で処方されているかもしれない。初回から40mgであれば、処方ミスかもしれない。最も処方される規格から外れて処方された時は、医師の意図があるか、処方ミスの恐れがある。

例6

アジルバ錠20mg 夕食後1回1錠

 用法が1日1回でも、起床時・朝食後・夕食後など、処方のされ方はさまざまであるが、最も処方される用法が存在する。降圧薬は朝食後に処方されることが多いのではないだろうか? 夕食後であれば、早朝高血圧を気にした処方かもしれない。いつもの用法とは違う用法で処方された場合、医師の意図が隠されている可能性がある。

私のアジルバの用法・用量の感覚

アジルバ錠○mg:○(20が多い、10は意図推察、40まで)

1日1回(いつでも良いが、朝食後が多い。他は意図推察)

添付文書相違:1日2回(難治性高血圧のため)

 添付文書どおり覚えるのではなく、用法・用量はリアルな処方に照らし合わせて記憶する。10mgから開始の場合、「血圧を下げる目的以外で、何か医師から聞いていますか?」と質問をしてみても良い。単純に、血圧があまり高くないので、低用量から開始されているかもしれない。いつもと違う用法・用量の時に、患者への質問を変えることで、今まで見えていなかった事実が炙り出されることがある。薬歴の質も変わってくるだろう。

達人薬剤師
ハマヨ

いつもの処方のされ方と違うという感覚は大切にしてほしい

私は、この感覚から患者への質問を変えている。疑義照会をすることもある。

特殊な用量がある薬とは

例7

フェブキソスタット錠10mg 朝食後1回1錠

 開始用量と維持量がある薬、適応疾患によって用量が違う薬、患者背景によって用量が異なる薬などは、地道に覚えていくしかない。特殊な用量がある薬を、いつもと同じ処方のされ方だから大丈夫と思って処方鑑査をすると痛い目をみる。ここは感覚だけでなく、論理的にしなければいけない。

 ポイントはすべてを覚えようとしないことだ。日常業務でよく処方される薬だけ覚えておけば良い。よく覚えていない薬や用量が混雑な薬は、その都度でも添付文書を見れば、次第に覚えていく。使わなくなった薬は次第に忘れていくが、その時は添付文書を見たら良い。その繰り返しである。

私のフェブキソスタットの用法・用量の感覚

フェブキソスタット錠○mg:○(10から開始。維持量は20が多い。稀に40)

1日1回(いつでも良い)

添付文書相違:20mgから開始(他の尿酸降下薬服用中の切り替えのため、無症候性高尿酸血症のため)

 20mgで処方された場合、初めて服用するのか、今まで服用していたのか患者に確認する必要がある。ただし、フェブキソスタットは。添付文書と相違した事例が多いので、臨機応変な対応が必要だろう。

 添付文書に記載されている維持量は通常40mgだが、実際は20mgが多い。添付文書どおり記憶していれば、リアルな処方への対応は難しくなる。上限量は60mgだが、処方される頻度が極めて稀なので覚える必要はない。60mgの時は添付文書を見れば良い。

達人薬剤師
ハマヨ

薬剤師から添付文書相違を提案しても良いのでは?

維持量からの開始が妥当だと考えれば、疑義照会をするのもあり。

特殊な用法がある薬とは

例8

エンレスト錠200mg 朝食後1回1錠

 薬剤固有の用法がある薬、適応疾患によって用法が違う薬などは、地道に覚えていくしかない。用法は、医師が意図して添付文書から外してくることが多いので、添付文書相違事例をいつもと同じ処方だから大丈夫という感覚で処理してはいけない。

 適応疾患によって用法が違う薬は、処方内容から適応を推察するか患者に適応を確認する必要がある。ただし、適応があやふやな事例もある。例えば、BNPが上がってきて心不全の恐れがあるので、降圧薬をアムロジピンからエンレストに変更するが、主として降圧目的であり、2次的に心不全の治療目的もあるといった事例である。

私のエンレストの用法・用量の感覚

・適応:高血圧の場合

エンレスト錠○mg:○(200が多い。400まで)

1日1回(いつでも良いが、朝食後が多い。他は意図推察)

・適応:心不全の場合

エンレスト錠○mg:○(50から開始。200まで)

1日2回(いつでも良いが、朝夕食後が多い。)

 エンレストはレアリスクなので、「ACEは併用禁忌 /ARBは併用注意(投与を避ける)」を確認する。またACEからエンレストに変更になった場合、ACEを中止してから36時間以上あけて服用を開始する必要がある。このように注意点が多い薬は、処方頻度が低ければ、添付文書を見た方が良い。

達人薬剤師
ハマヨ

処方鑑査は回数を増やさないと、この感覚は養われない。

曖昧な記憶があれば、添付文書を確認する。その習慣も大切だ。

感覚と論理を使い分ける

 普段より目にする添付文書と相違ない処方は感覚で処理すれば良いが、特殊な用法・用量がある薬は、処方される都度、その用法・用量で問題ないか確認する必要がある。処方される頻度が高い薬は記憶から処方鑑査ができるが、処方される頻度が低い薬は添付文書を見た方が良い。

 4分類法は論理的にチェックするべきだが、用法・用量はリアルな感覚を大切にしてほしい。添付文書の内容をそのまま覚えても、短期記憶で終わり、長期記憶にはならない。あなたが何度も見てきた処方のされ方の感覚を大事にするべきだ。

WORK:よく処方される薬の感覚を書いてみよう

今回の記事で紹介した「アトルバスタチン・アジルバ・フェブキソスタット・エンレストの用法・用量の感覚」を参考にして、あなたの薬局でよく処方される薬の特徴などを書いてみよう。

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